湧きだしがあるときの複素スカラー場
Schwingerのsource termは関係ありません。
二次元の複素行列をいじっていたときのこと。
そのデータは三次元にも拡張できるし、時間方向を考えることもできる複素データである。そのせいか、ふと「複素スカラー場みたいな形式にできないかな」と思った。
複素行列を複素スカラー場の各時点の値とみなすわけである。
離散フーリエ変換の性質を使えば偏微分は定義できるし、問題はないだろうと考え、計算をすすめる。
ところが連続の式の左辺を計算したところ、ほとんど至るところで0にならない。
物理由来のデータではないしなと諦めかけたとき、エネルギー平衡方程式を思い出した。
さっそくでを定義してみる。このは湧き出し密度である。
どうも「湧き出しがあるときの複素スカラー場の式」にあてはめればよいらしい。と思ったところで思考が止まる。
「湧き出しがあるときの複素スカラー場の式」なんて見たことない。
クラインゴルドン方程式の右辺にソース項を追加したもののは見たことがあるが、連続の式に変形できそうな形をしていない。
気になったので調べてみることにした。
湧き出しのないとき。このときはクラインゴルドン方程式
を満たす。
但しではスカラー場の質量、は光速度、はプランクのエイチバーである。
ここで、とおくと、連続の式が得られる。
湧き出しがあるとき。このときは
ここで、とおくと、エネルギー平衡方程式が得られる。
どう考えようか。
エネルギー平衡方程式から始めて、かなり「特殊な仮定」を付けてもいいから、に持っていく。
そして、がクラインゴルドン方程式
を満たすとするのはどうだろうか。
はと無関係ではないだろうから、何らかの方程式が得られるだろう。後は途中で課した「特殊な仮定」をはずしていけばいい。
また、が恒等的にならば、であるから、クラインゴルドン方程式を再現するだろう。
この方針で進めよう。
このままでは、とても手がつけられない。そこで次の仮定をおく。
【仮定1】
非斉次波動方程式だ。
今、特殊解が得られたとすると
これを【仮定1】の式から、辺々引けば
となって波動方程式に帰着するというものだったと思うが、よく覚えていない。
あと波動方程式に帰着するということはとなるをに加えても【仮定1】は成り立つ。つまり不定性があるということ、これは境界条件が必要か。
うん、めんどうだ。今は【仮定1】が解けるものとして先に進もう。今回の目的は、非斉次波動方程式を解くことではないのだから。
すると
が得られる。これを変形して
(1)
としておく。
ここで、
【仮定2】はの関数である。
とする。
ここでとおくと、
を掛けて縮約すれば
代入先の式にあわせて、インデックスをつけかえておこう。
これを(1)式に代入して次式を得る。
よって、である。
あとは、をクラインゴルドン方程式
に代入すればよい。
なんだろう。こう変形しろと言わんばかりの形をしている。
(2)
(3)
で定義する。添え字が上付きのものはで縮約してやればいいだろう。すると(2)式は
とすっきりした形になる。
ただ共変微分に【仮定2】の産物が入っているのが気になる。というわけで(3)式右辺の括弧を展開してみる。
ここでであったから、代入すると。
となる。【仮定1】の産物が残ってしまっているが、ここまでだろう。
結局、湧き出しがあるときの複素スカラー場の方程式はこうである。
ここで
は、としたとき
の解である。(の定義から)
なんだろう。電磁場と相互作用している複素スカラー場の式にそっくりだ。こっそりに謎の定数が入っているにしてもである。
当然Gauge変換しても形は変わらない。
であるとして、Gauge変換
を行うと
となっては「電磁場とスカラー場の相互作用」で紹介したClebsh potentialの形にすでになっている。
「電磁場とスカラー場の相互作用」の結論は「電磁場と複素スカラー場が相互作用する系の自由度は4である」だった。
「実は3である」とも考えたが、少し冷静になろう。
今回得られたのは、外的要因である湧き出し密度が与えられた場合の複素スカラー場の式であって、湧き出しそのものについては未知のままである。
それは、スカラー場の自己相互作用かもしれないし、ほかのスカラー場との未知の相互作用かもしれない。
もちろん複素スカラー場は荷電場である以上、を電磁ポテンシャルと考えることはできる。しかしを思い出そう。
にが入っているため、1個の複素スカラー場ごとに1個の電磁場が存在することになる。むしろ複素スカラー場と電磁場をまとめて一つの場として扱うほうが自然なほどである。
なんだろう。素人が考えることではないような気がしてきた。こういうのは専門の人にまかせるのがいいだろうな。
以下、おまけ。
「湧き出しがあるときの複素スカラー場のラグランジアン密度は作れません。少なくともわたしは断念しました。」
「お約束の流体力学っぽい変形」
とすると
が成り立つ。
ここで
である。
の第1項のため、渦なしとはいえないものなっているなあ。
電磁場とスカラー場の相互作用
電磁場と相互作用する複素スカラー場の式を眺めていたとき、
ふと疑問に思った。
「この系の自由度っていくつなんだろう?」
気になったので調べてみることにした。
この系のラグランジアン密度は、
ここで
は電磁ポテンシャル、は複素スカラー場の質量、は複素スカラー場の電荷、アスタリスクは複素共役を表す。ちなみに計量はである。
は4成分の実ベクトルだから自由度4、は複素変数なので実数換算で自由度2、合計して自由度6になっている。
まず、ゲージを固定してみる。
であるとして、Gauge変換
を行うと
ここで、である。
あとは何ができるだろうと調べたら、Clebsh potentialというのが見つかった。
これは任意の3次元ベクトルに対して、あるスカラー変数が存在して
が成り立つというもの。
上の式のをベクトルポテンシャルとみれば、3自由度のベクトルポテンシャルを3個のスカラー変数で表現できたことになる。
うれしいのは、スカラー変数を使って、
電磁ポテンシャルの0成分を
とおいても、Maxwell方程式と矛盾しないことだ。
ここで
を使って、を計算してみると
となる。このことからは
となる。あるいは
[tex: Q =
\begin{vmatrix}
\partial _{\mu} \alpha \partial ^{\mu} \alpha & \partial _{\mu} \alpha \partial ^{\mu} \beta \\
\partial _{\mu} \beta \partial ^{\mu} \alpha & \partial _{\mu} \beta \partial ^{\mu} \beta
\end{vmatrix} ]
を定義して とも表せる。
を使った場合のラグランジアン密度は
ここで
であるから、 とおけば
となる。
残った変数はだけであるから、この系の自由度は4であるとしていいだろう。初め6個あった自由度のうち2個は冗長な自由度だったということになる。
【追記】2022.08.01
ゲージ固定は後のほうがよかったかもしれない。
クラインゴルドン方程式
今回はシュレーディンガー方程式でやったのと同じ変形をクラインゴルドン方程式でもやってみようというだけの話。
クラインゴルドン方程式はこんな式だった。
(1)
ここに
ちなみにである。
ここで、実スカラーを使ってと表現する。
これを(1)式に代入していくのだが、面倒なので結果だけ書くと次の2式が得られる。
(2)
(3)
ここで
(2)式は連続の方程式で、(3)式は運動方程式でいいだろう。
またシュレーディンガー方程式の場合と同じように
(3)式の左辺の各項を平均速度場、拡散速度場、質量項
右辺を拡散項と解釈しておけばよさそうだ。
シュレーディンガー方程式
両辺に、 を掛けると
これの複素共役をとると
(1)-(2)を計算すると
式変形をしていく。
となって、連続の方程式が得られる。
ここまでは、よく見かける式だが、手がかりが欲しいので、もう少し式変形を続けてみる。
複素対数は多価関数だった、でもどの枝も定数しか違わないし、どうせ微分するのだから気にしないでおこう。
ここで、, とおけば
となって見慣れた感じの式になる。
ええと、は速度ポテンシャルということらしい。
次に運動方程式を求めていく。
とりあえず、をとで表現するのがよさそうということは分かったから、そうしてみよう。
あとは、この式をSchrödinger方程式に代入すればいいのだが、計算に苦労したのを思い出したので、少し工夫してみる。
まず(3)式の対数をとる。
これをで偏微分すると
ナブラの方は
もう一回微分すると
(6)式に(5)式を代入すれば
式がはみ出してしまうので、実部・虚部に分けて計算を進める。
実部は
虚部は
となる。
式変形に疲れたので、省略させていただくことにする。
(9)式を整理すると
連続の方程式になる。
(8)式を整理すると
これが、運動方程式だろう。
(10)式は、(渦無しの)完全流体の運動方程式と似ているので、圧力関数を定義して……とかやりたくなるが、結論から言うと正しくないらしい。
では、どう解釈したらいいかと探したら、確率力学に行き着いた。
(10)式を次のように変形しておく。
確率力学での、それぞれの項の解釈は以下のとおりであった。
: 平均速度場
: 拡散速度場
: 拡散項
とりあえず目的は達成したが、式変形以上のことは出来ていないね。
まあ、流体的力学的な視点を楽しめたからよかったとしよう。
■
今まで毛嫌いしてましたが、ついにブログを始めました。
でもね、何を書いていいかわからないのですよ……
まずは書きたいものを探すところから