条件付命題論理のセマンティクス(2)
「条件付命題論理のセマンティクス(1)」の続きです。
「条件付命題論理の健全性」の証明で使う定理といくつかおまけの定理を証明していこう。
「条件付き確率」と同様に
証明中のイコールの上の文字は変形に使用した公理ないし定理を表している。
なお~,~は「条件付き確率」にあるものと同じである。
基本的には真理値関数の定義に従って確認していくだけなのだが面倒なので
手間を省くため、次の二つの定理を証明しておく。
【】
任意のストラクチャーに対して、がを満たすとする。
このとき である。
証明:
ストラクチャーとする。
任意のストラクチャーについて上が成り立つから、恒真の定義よりである。
【】
任意のストラクチャーに対して、がを満たすとする。
このとき である。
証明:
ストラクチャーとする。
よってである。ストラクチャーは任意であるので、恒真の定義よりである。
さて続けよう。
以下ではストラクチャーは任意とする。
【】
証明:
よってより成り立つ。
【】
証明:
よってより成り立つ。
【】
証明:
よってより成り立つ。
【】
証明:
であるから
よってより
である。
の場合
の場合
である。よって
であるから
となって、いずれの場合も
である。よってより成り立つ。
今日はここまでにしておこう。
しかし思ったより進まなかった。
条件付命題論理のセマンティクス(1)
「条件付き確率的含意をもつ命題論理のセマンティックス」の方が正確なのですが。
ネットで条件付き確率と命題論理について検索していたときのこと。
「条件付き確率で記号論理を展開できない」と主張するページを見かけた。
気になって調べたところ、David Lewisのトリビアリティー・リザルト(Lewis's triviality result - Wikipedia)の焼き直しだと分った。
まあ面白い主張なのだが、こうも思う。「奇妙な結果が導き出されるなら、前提条件が間違っているだけじゃないの」と。
結局自分でやってみることにした。
ところが、いきなり壁に突き当たる。
古典的命題論理()の場合は、それぞれの命題記号に有限加法族上の演算が対応しているため、すんなりと理論が展開されていく。
しかし条件付き確率の場合は対応する演算がないため、ことあるごとに確率論に立ち返って検証しないといけない。これは不便だ。
「条件付き確率」で、有限加法族の拡張を行ったのはこんな事情があったからだ。
さて前置きが長くなったが、これで始められる。
【定義】(論理式)
命題変数全体の集合とする。
このとき論理式全体の集合を以下で定義する。
また補助的な論理記号を以下で定義する。
カッコの多さが気になる。
そこで論理記号の結合の強さを
とする。また同じ結合の強さの論理記号が続く場合は左連結とすることにして、一番外側のカッコも含めできるだけカッコを省略することにする。
例えば
のような感じである。ただし、わかりにくくなる場合はカッコを省略しないことにしよう。
【定義】(真理値関数)
論理式全体の集合、空でない集合と上の有限条件付加法族に対して、関数がを満たすとき、は上の真理値関数であるという。
【定義】(ストラクチャー)
論理式全体の集合、空でない集合、上の有限条件付加法族、上の真理値関数とする。
このとき、順序対をストラクチャーという。
【定義】(真・偽・恒真)
ストラクチャー、とする。
のとき、はで真であるといい、と書く。
がで真でないとき、はで偽であるといい、と書く。
また、任意のストラクチャーに対してが成り立つとき、は恒真であるといい、と書く。
が恒真でないとき、と書く。
先が長いので、今日はここまでにしよう。
条件付き確率
検定をすることもあるけど、基本的に確率論は苦手です。
個人的な興味で、条件付き確率が関係する課題に取り組んでいたときのこと。
条件付き確率が演算に対応していないとどうしようもないという結論に達した。
さっそくググってみるが見つからなかったので、自分でやってみることにした。
端的に言えば、演算を導入して、任意の確率測度に対して
を成り立つようにするのが、今回の目的である。
まず有限加法族を拡張しよう。加法族じゃないの?と思う人もいるだろうが、冒頭の課題には有限加法族の拡張で十分だからである。
【定義】
空でない集合と なる空でない が以下のを満たすとき、は上の有限条件付加法族であるという。
は、演算について閉じている。
ここで、は補演算、は交叉、は結合で、は以下の ~ を満たす上の2項演算である。
新たな演算について、性質をしらべておく。
以下では、とする。
また、イコールの上の文字は変形に使用した公理ないし定理を表している。
【】
証明:
【】
証明:
【】
証明:
【】
証明:
【】
証明:
のとき
のとき、であるからでとおけば
【】
証明:
のとき、であるから
のとき
【】
証明:
【】
証明:
【】
証明:
ここでだから、でとおけば
【】
証明:
【】
証明:
のとき
のとき
【】
証明:
のとき
のとき
性質はだいたい分かったので、次へ行こう。
まず必要最低限の定義だけしておく。
【定義】
空でない集合と上の有限条件付加法族の順序対を可測空間という。
可測空間に対して、関数が以下のを満たすとき、は上の確率測度であるという。
且つ、ならば
また、可測空間上の確率測度全体の集合をとする。
ここで、後で使う補題を2つ証明しておく。
【補題1】を可測空間とする。
任意にとをとり、とおくと、である。
証明:
且つ、とする。
このとき、であるから
【補題2】を可測空間とする。
任意にとをとる。但し、とする。
このとき、とおくと、である。
証明:
且つ、とする。
これで、演算で条件付き確率を表せるのかといえば、どうも確率測度に関する条件が足りていないようだ。
そこで、通常の条件付き確率でも成り立つ次のを公理として採用する。
【】
を可測空間とする。
このとき、任意のと任意のに対して
且つである。
これで、次の定理が証明できる。
【条件付き確率の定理】
を可測空間とする。
このとき、任意のおよび任意のに対して以下が成り立つ。
特に、のとき
である。
証明:
で場合分けを行う。
の場合
よって成り立つ。
の場合
よって成り立つ。
且つの場合
さらにで場合分けを行う。
の場合
より
よって成り立つ。
の場合
とおくと、補題1,補題2からである。
ここで
よってより
とりあえず目的は達成した。
ざっと見直してみたが、のをにして
「でとおけば」といったあたりを
「でとおけば」のように置き換えれば
加法族の拡張も同様にできそうだ。必要ないのでしないけど。
さて従来の条件付き確率との違いは
は演算である。
の場合でも、が事象である以上は値を持つ。(但し、条件付き確率の定理からは値を決定できない。)
ネスティングが可能である。(例:)
くらいだろうか。
長かった。しかし冒頭の課題を思い出せば、スタート地点にたどり着いただけなんだよな。
ロジスティック方程式の差分化
カオス力学系の話は詳しいサイトがたくさんあるのでそちらをどうぞ。
ロジスティック方程式のような非線形の微分方程式を不用意に差分化すると
本来の解とは全く異なる奇妙な挙動を示すことがある。
初めて目にしたときはとても面白いと思ったが、同時にこうも思ったものだ。
「差分化のしかたが悪かっただけじゃないの?」と。
気になったので自分でやってみることにした。
今回使用するロジスティック方程式は
これを正しく差分化するのが目的になる。
まず差分で使う演算子について考えよう。
差分演算子と平均演算子を以下のように定義?する。
ここで、は任意の変数、はの任意の関数である。
残念ながら、循環しているためこれだけでは定義になっていない。
そこで以下の性質をもつ変数の存在を仮定する。
そして変数をインデックスとよぶことにする。
インデックスを変数にとれば
となって、中央差分になっていることが分かる。
なぜ回りくどい定義にしたか。
を考えよう。
となって、合成関数の差分演算子をとったものと一致する。
つまり気軽に変数変換ができるということで、等間隔差分にはない利点である。
ちなみに差分商に関するチェーンルール
も成り立つが、ただの通分である。
基本的な性質。
ここで
である。
証明は四則演算だけで簡単なのでしない。
どう差分化するか。
式は解けることが分かっている。
正しく差分化するということは、式の解を再現しなければならないから
差分方程式として解ける必要があるだろう。
まず式を解いてみる。ベルヌーイ型だから
と変形する。
ここでとおくとだから
となる。
上の解法を参考にして差分化してみる。式から
ただしを使った。
だったから。
これらを式に代入すると
整理すると。
となる。ここで
とおいた。
のとき
であるから、式は元のロジスティック方程式に戻る。
実際に式を解くには式に向かって変形していけばよいだけである。
ただし
はそれほど自明ではない。
いま (は定数)、として
を仮定する。
インデックスをシフトして移項すれば
ここでとおけばであるから
をいろいろ変えたすべての変数について式が成り立つからである。
双線形化法で有名な広田良吾先生の著書に触発されて思いついた差分法だったが
先生ご自身も双線形化法を使ってロジスティック方程式の差分化をされていた。
さすがとしか言いようがない。
重力場中のスカラー場
一般相対論関連の記事を読んでいたときのこと。
ふと「スカラー場はどうなるんだろう?」と疑問に思った。
ググっても見つからなかったので、自分でやってみることにした。
ここでは以下の条件をおく。
1.計量・スカラー場ともに静的球対称
2.スカラー場は質量0の実スカラー場
3.計量は無限遠でミンコウスキー計量に漸近
4.スカラー場は無限遠で0に漸近
まず条件1から線素は
とおける。
ここで
は動径の関数
では真空中の光速度、は時間である
ただし条件3から、である必要がある
変数をととれば
計量は線素から
となる。また上付きの方は
である。また、あとで使うだろうからも計算しておく。
通常であれば、ここからクリストッフェルの記号を計算してとなるのだが長い。
過程は省略して、リッチテンソルの計算結果だけ書くと
ほかはすべて0になる。
ただし、はの微分を表す。
続いてスカラー場を考える。質量0の実スカラー場のラグランジアン密度は
で与えられる。ただし、積分して作用を求める際にが掛かるのでその変分は
これから
ここで
を使うと、最小結合のクラインゴルドン方程式
が得られる。いまは条件1からがのみの関数なので
となる。
また、エネルギー運動量テンソルは
を使うと
いま
を定義すれば
である。がのみの関数であるから以外は0である。
これから、アインシュタイン方程式は
となる。
式にを掛けて縮約すると
これを式に代入して、整理すれば
となる。
あとは、今までの結果を代入すれば解くべき式が得られる。
あとは式を解けばいいのだが、その前にもう少し調べておく。
まず式を変形していく。
ここで、
(ただしはの関数)
とおくと
となる。これから
を得る。この表式をつかうと線素は
となる。これを
と変形してを使うと
となる。ただしを定義した。
式は後ほど必要となる。
またについては、条件3のためのとき、つまりである必要がある。
次は式を解くことにしよう。いまから
が成り立つから、を以下のように変形できる。
これを積分すると
両辺の指数を取れば
ここでは任意の定数である。これより
が得られる。
あと使っていないのは式である。
を計算すると
ここでから次式が成り立つことに注意する。
式に式を代入すると
これを整理すると
となって大分すっきりする。
辺々積分すれば
となる。ここには任意定数である。これを変形すると
となって、変数分離形になる。あとは積分するだけである。
ここで、とおくと、であるから
ここでとおいた。
ただしは任意定数である。
ここで のときであることを使うとでなければならない。
結局との関係式は
となる。
が負のときは、べき乗が定義できない場合があるためでなければならないだろう。
つづいて線素をもとめるのだが、をの関数として解くのは難しい。そこでを変数とした場合の式を使う。
途中の計算は省略するが
となるから、線素は
である。ここで
である。
残るはスカラー場だけである。式は
である。ここで
を使うと
だいぶ煩雑になってきたが、結論からいうとの係数はになるので
よって
であるから絶対値記号は外してある。
また積分定数は条件4からでなければならないだろうからスカラー場の式は
となる。
とりあえず終わった。
アインシュタイン方程式の厳密解には、最初に解いた人の名前がつくらしいが
この解には誰の名前がついているんだろうか?
暇なときにでも調べてみよう。
ディラック方程式
やってることは、ディラック方程式の導出とあまり違いません。
「質量の同じ2個の実スカラー場は複素スカラー場と等価である」という記事をみていて、ふとこう思った。「じゃあ、質量の同じ2個の複素スカラー場ならどうなるの?」と。ググっても見つからないので自分でやってみることにした。
この系のラグランジアン密度は
あるいは
[tex: \varphi =
\begin{pmatrix}
\varphi_{1} \\
\varphi_{2}
\end{pmatrix} ]
として、
である。アスタリスクは複素共役、ダガーはエルミート共役(転置+複素共役)を表す。ここでは後者を使う。
から、二成分のクラインゴルドン方程式
が得られる。因みに計量 はである。
どう考えるか。
(1)式を単純に、たまたま質量が同じ無関係な2個の複素スカラー場とみることはできるだろう。しかし、ここでは無関係でない場合を考えよう。
1次行列ならの解はしかないが、2次行列の場合は無数にある。
それをうまく使って
と変形したい。
因みに、は2次の単位行列、は2次行列を成分に持つベクトルである。
(2)式が(1)式に戻るためには
でなければならない。ここでは2次の零行列である。
例えばとしてPauli行列を取ればよいだろう。以下ではは3個のPauli行列のベクトルとする。
ここで、を次のように定義する。
これを、(2)式に代入すると次式が得られる。
さてとは何だろうか。
(3)(4)式を空間反転させると、次のような式が得られる。
ここで
である。
ここでとおくと
となる。
よくわからないが、 はの空間反転解に関係していそうだ。
ここで
[tex: \xi =
\begin{pmatrix}
\varphi \\
\psi
\end{pmatrix} ]
とする。
は
[tex: \alpha_{i} =
\begin{pmatrix}
\sigma_{i} & O_{2}\\
O_{2} & -\sigma{i}
\end{pmatrix} ]
は
[tex: beta =
\begin{pmatrix}
O_{2} & I_{2} \\
I_{2} & O_{2}
\end{pmatrix} ]
とする。すると(3)(4)式は
と1本の式にまとめることができる。ここでは4次の単位行列である。
空間微分の部分を右辺に移すと
ここで、は以下を満たす。
ここで、は4次の零行列である。
これで分かった。(5)式はディラック方程式になっている。そして、質量の同じ2個の複素スカラー場は1個のディラック場と等価である。
【追記】2022.08.02
空間反転の考察が間違っていたので修正しました。